マンションの壁や床の下には、私たちの生活を支える無数の配管が血管のように張り巡らされています。中でも、日々汚れた水を運び去る排水管は、建物の健康状態を左右する重要なインフラです。この排水管は、実はマンションが建てられた年代によって、その「材質」が大きく異なります。そして、材質が違えば、その寿命やメンテナンス方法、そして抱えるリスクも変わってきます。自宅マンションの排水管が何でできているかを知ることは、人間が自分の血管の状態を気にするのと同じくらい、建物の健康管理において大切なことなのです。 古いマンション、特におおよそ1980年代以前に建てられたもので多く採用されていたのが「鋳鉄管(ちゅうてつかん)」です。その名の通り鉄を鋳造して作られた管で、非常に頑丈で音を伝えにくいというメリットがあります。しかし、最大の弱点は鉄である以上、内部が錆びやすいことです。長年の使用で内壁にできた錆こぶは、表面がザラザラしているため、油や髪の毛などの汚れが引っかかりやすく、詰まりの温床となります。この錆が進行すると、やがて管に穴が開き、漏水事故につながるリスクを抱えています。 一方、現在新築されるマンションで主流となっているのが「硬質ポリ塩化ビニル管(塩ビ管)」です。プラスチックの一種であるため錆びることがなく、管の内面が滑らかなので汚れが付着しにくいという大きな利点があります。また、軽量で加工がしやすいため施工性にも優れています。ただし、鋳鉄管に比べると遮音性が低く、排水音が響きやすいというデメリットも指摘されます。そのため、最近では塩ビ管の周りを耐火材や遮音材で覆った「耐火二層管」などが開発され、遮音性や安全性を高める工夫がなされています。 このように、排水管の材質はそのマンションの築年数やグレードを映す鏡とも言えます。もしご自宅が古いマンションであれば、鋳鉄管が使われている可能性を念頭に置き、管理組合が主体となって行う定期的な高圧洗浄や、将来的な配管更新工事の計画が適切に進んでいるかを確認することが重要です。見えない部分の構造と材質に関心を持つことが、予期せぬトラブルを防ぎ、マンション全体の資産価値を守る第一歩となるのです。