食品工場や倉庫において、シバンムシは重大な経済的損失と信用の失墜を招きかねない深刻な害虫問題の一つです。ある製粉・製パン工場では、製品へのシバンムシ（主にタバコシバンムシやジンサンシバンムシ）の幼虫や成虫の混入クレームが相次ぎ、原因究明と対策に追われた事例があります。調査の結果、工場内の複数の箇所でシバンムシの発生が確認されました。主な発生源となっていたのは、原材料である小麦粉やその他の粉類を保管していた倉庫、製造ラインの機械内部や周辺に蓄積した粉塵、そして長期間保管されていた返品製品などでした。シバンムシの幼虫は、これらの場所に潜り込み、人知れず繁殖を繰り返していたのです。被害が発生した背景には、いくつかの要因が考えられました。第一に、原材料の受け入れ時の検査体制の不備。外部から持ち込まれた原材料に、すでにシバンムシの卵や幼虫が付着していた可能性がありました。第二に、工場内の清掃・衛生管理の不徹底。製造機械の隙間や床、壁などに粉塵が堆積し、それがシバンムシの餌と繁殖場所になっていました。特に、日常的な清掃では手の届きにくい場所の管理が課題でした。第三に、温湿度管理の問題。工場内、特に倉庫の温度や湿度が、シバンムシの繁殖に適した範囲に保たれてしまっていた可能性があります。この事態を受け、工場では抜本的な対策が実施されました。まず、原材料の受け入れ検査を強化し、必要に応じて燻蒸処理などを行いました。次に、工場全体の清掃体制を見直し、専門業者による定期的な清掃と、日常清掃のマニュアル化、従業員教育を徹底しました。特に、機械内部や高所など、清掃が困難な箇所の対策を強化しました。温湿度管理についても、モニタリング体制を強化し、適切な管理基準を設定・維持するようにしました。さらに、早期発見・早期対応のために、工場内の各所にフェロモントラップ（シバンムシの成虫を誘引して捕獲する罠）を設置し、発生状況を継続的に監視するシステムを導入しました。これらの総合的な対策（IPM：総合的有害生物管理）を実施することで、シバンムシの発生を抑制し、製品への混入リスクを大幅に低減することに成功しました。この事例は、食品工場におけるシバンムシ幼虫対策が、単一の方法ではなく、原材料管理から製造工程、保管、清掃、モニタリングまで、多岐にわたる継続的な取り組みが必要であることを示しています。